Ryoko Nishioka
Tendai Buddhist Denomination, Japan
日本国天台宗
日本仏教の「天台宗」を代表し、今回のパネルディスカッションにおいて「戦争と平和についての日本の将来(未来)」というテーマで、スピーチいたします事を大変光栄に思い、皆様のご配慮に感謝申し上げる次第でございます。
私ども天台宗は、異なった宗教同士が対話し、祈るという「平和の種子」をアッシジから比叡山へと受け継ぎました。そして1987年以来、16回に亘って世界の代表的宗教指導者をお招きし、「比叡山宗教サミット」を開催して参りました。特に今年は世界連邦日本宗教委員会の方々と共に、前イスラエル首長ラビのイスラエル・メイール・ラオ師とパレスチナアラファト議長宗教顧問のシェイク・タラル・シデル師をお招きし、平和の祈りと対話を行わせて頂きました。現在の中東情勢を考えますとき、ユダヤ教の代表者とイスラム教の代表者との出会いと対話は、まさに画期的なことであると存じます。私どもの主催いたします宗教サミットが、世界平和にささやかなりとも貢献出来得るのであれば、これにまさる喜びはございません。今回のサミットは、日本の宗教者はもちろん、平和を願うすべての人々に希望を与えるものであったと存じます。
さて、日本の将来について考えますとき、最優先の課題はいかにして平和を維持してゆくかにあります。
そのためには、平和の対極にある戦争というものについて考えなくてはなりません。私どもは先の第二次世界大戦で多くの人々に被害を与えました。特にアジア地域の人々に深い憤りと悲しみを与えました事については、深い懺悔と真摯な反省の上に立った行動が求められております。さらに、その戦争を正当化しようとする行為もありました。このような反省から、戦後日本は平和憲法を中心として、戦争を放棄する非戦の姿勢を貫いてまいったのであります。
しかしながら、その後自由主義陣営と共産主義陣営の分裂した世界は、代理戦争と呼ばれる局地戦争を繰り返しました。冷戦終結によって平和が訪れるのではないかという淡い期待もつかの間で、それまで封じ込められていた民族間の差別と人種抑圧が吹き出し、紛争が多発しております。一方では、強力な資本主義支配が、富の不均衡をうみだし、その結果、貧困と飢餓に喘ぐ国々との格差が増大の一途をたどっております。
更に中東やインド・パキスタンなどで続く、宗教同士の根強い対立は、相手を抹殺する事で自己の正当性を強調しているようにさえ見受けられます。このことは、私どもが提唱しております対話による平和の実現がいまだに遅々として進んでいない事を示しております。
そして、世界の多くが反対しておりましたイラク戦争がついに引き起こされ、数多くの尊い人命が失われました。双方の正義と大義の裏に、互いの宗教に対する偏見が抜き難く存在しているように思われてなりません。私共宗教者は、これらの問題に粘り強く対話を続けて参りたいと存じます。そして、その事こそが、唯一平和に至る道であると思うのであります。今こそ、仏教者が各宗教間の対話の橋渡しをすべきであることを強く再認識するものであります。
日本の平和の基本」は平和憲法の護持にあります。平和憲法を守り、非核三原則を徹底して守り抜く事であります。即ち核を作らない、持ち込まない、使用しないという原則であります。このことは、日本の宗教者として決して譲ることのできないものであります。先月8月6日、9日には広島、長崎で原爆が投下されて58回目の犠牲者追悼行事が行われました。我々は、世界で唯一の被爆国であります。この場を借りまして、全世界の皆様に、どのような国も核を使用する事のないように、また核を保有することのないよう訴えます。今、核を政治的な道具として脅しをかけている国が世界の問題になっております。世界にとってこれほど危険な事はありません。われわれ宗教者は一致団結して、この危機を未然に防ぐ責務があると存じます。
私共日本天台宗の開祖・伝教大師最澄上人は、御遺戒の中で「怨みをもって怨みに報ぜば怨み止まず、徳を以て怨みに報ぜば怨み即ち尽く」という言葉が有ります。積極的に平和を作っていくためには、相手を怨み武力侵攻する事の繰り返しでは怨みは止まない。互いに平和の構築に汗を流す事によって怨みが止むという言葉の意味を十分にかみしめる必要があります。仏教では平和、慈悲を説き、戒律の第一として不殺生戒を説きます。この釈尊基本的な考え方を天台宗は一番大切にしております。
日本の将来の平和を考える時、日本の宗教指導者が互いに対話し、相互理解と尊重の上に立って共に祈り、平和の使者となる、という自覚に立って行動する事が大切な要件になるものと思っております。その意味で「比叡山宗教サミット」を継続し、日本の平和、世界の平和の基礎となるべく、今後も努力して参りたいと思っております。
ご清聴ありがとうございました。
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