世界の諸宗教の指導者が一堂に会して平和を祈るつどいがこの9月、ポーランドの古都クラクフで開かれました。
この平和の祈りは、さきの教皇ヨハネ・パウロ2世が世界の平和を祈るため、キリスト教ばかりでなく諸宗教の指導者も招いて、1986年にイタリアのアッシジで行ったのがはじまりでした。その後、ローマの信徒団体である聖エジディオ共同体が引きついで、毎年ヨーロッパ各地で開かれてきました。
参加者は、キリスト教やイスラム教、ユダヤ教、仏教の各教派の宗教指導者にとどまらず、ゾロアスター教や天台宗、天理教、立正佼成会の代表たちが顔をそろえ、今年もその数は400人以上にのぼりました。
初日は、ギリシャ正教やプロテスタントの聖職者が加わったエキュメニズムのミサがカトリックの教会で行われ、これには教皇ベネディクト16世がイタリアからの衛星中継をつうじて参加しました。そのあとの開会式典には、EUのバローゾ委員長をはじめユネスコの事務局次長、地元ポーランドの外相、イスラム教の最高学府アルアザール大学の学長、ルクセンブルク大公らが出席しまた。2日目は、22の分科会にわかれ、「アジアの諸信教」や「ヨハネ・パウロ2世とアッシジの精神」といったパネル・ディスカションが行われて、宗教者間の対話と交流をはかりました。
3日目の最終日、参加者全員が、クラクフから車で1時間ほどのところにあるアウシュヴィッツ強制収容所跡を巡礼しました。この収容所は、ナチス・ドイツがひそかに決めた「ユダヤ人問題の最終的解決」にもとづいて、ユダヤ人だけでも100万人あまりをガス室や重労働、栄養失調、人体実験で殺戮したところです。諸宗教の代表とともに、ポーランド国内や遠くイタリアから合流した3000人以上の信徒が、強制収容所内を沈黙のうちに行進しました。そして、歴史を記憶することの大切さを確認しあうとともに、死者への祈りをささげました。このあと宗教指導者たちはクラクフにもどり、ともに祈ったのち、外交団や一般市民が加わるなか、世界にむけた平和宣言を採択しました。
宣言は、「精神性をもたない世界はけっして人間的ではないと、どのような宗教もとらえている。諸宗教は私たちに、平和の源である神にたちもどる道を示している」として、宗教のうちに含まれる平和の価値を訴えました。諸宗教の人びとがともに肩をよせて祈り、いのちの尊さを共通の認識として対話をすすめることが、平和を「成長」させるのです。
平和宣言の採択にあたり、あいさつにたった天台宗の杉谷義純・宗機顧問は、アッシジの聖フランシスコのものとされている「平和の祈り」を引用しました。「主よ、私をあなたの平和の道具とさせてください」。多くの人びとが自分の使命を呼びさまされ、深い感銘をうけました。
最後に、ある参加者が寄せたことばをお伝えします。「大人たちはいつも戦争に理由をつけます。しかし、子どもは戦争がなぜおきているのか分からない。だから、世界の平和は子どもたちの平和でなければならないのです」。
(二階宗人)
参考図書 A.リッカルディ著 「対話が世界を変える 聖エジディオ共同体」 春風社(2006年)